読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

pixivのインスタンスPawooはMastodonの可能性や魅力をむしろ捻じ曲げて伝えている

pixivがMastodonのインスタンスPawooを立ち上げ、現在ユーザー数トップのインスタンスになっています。

www.buzzfeed.com

このサービスの可能性や魅力が正しく伝わらないまま終わってしまうのでは……。そんな焦りから、しっかりしたインフラを用意し、企業として提供できないかを会社に提案したという。

上の記事を読んでみたのですが、pixivが何を意図して始めたのか、いまいち腑に落ちませんでした。Mastodonの仕様と構成は富豪的で運用の負荷が高いのに、そこまでのコストを支払って何を得ようとしているのでしょうか。今のところ収益とかはなさそうですが、記事にあるように使命感に基づいた慈善事業的な側面が強いのでしょうか。あまりよく考えず勢いで始めているような印象も受けます。また、インスタンスごとのローカルタイムラインから独自の文化圏が生まれることを期待しているようです。

ですが、そのようなpixivのMastodon像と私のMastodon像とは大きく異なっています*1。Mastodon作者自身が立てたインスタンス、Mastodon.socialのaboutページを見てみましょう。このページはサインアップする際のページも兼ねており、Mastodonとは何ぞやについての説明があります。

mastodon.social

Mastodon は自由でオープンソースなソーシャルネットワークです。商用プラットフォームの代替となる分散型を採用し、あなたのやりとりが一つの会社によって独占されるのを防ぎます。信頼できるインスタンスを選択してください — どのインスタンスを選んでも、誰とでもやりとりすることができます。 だれでも自分の Mastodon インスタンスを作ることができ、シームレスにソーシャルネットワークに参加できます。

「自由でオープンソース」「分散型」「ソーシャルネットワーク」というキーワードがハイライトされています。分散型とは、単に複数のインスタンスが存在しているということではなく、独立したそれらがそれでいて互いに協調しあたかもひとつのSNSであるかのようにも振る舞う、そういう意味だと私は理解しています。その結果、どのインスタンスを選んでも、たとえそれが自分で作ったインスタンスだったとしても、所属に関係なくシームレスにSNSに参加できる、そう説明しています。 

このaboutページ、オープンソースなので当然好きに改変することができます。他のインスタンスではマンモスの画像を独自のキャラクターに替えたり、Mastodon自体の説明に加えてそのインスタンスについての説明を追記したりしているのですが、Pawooのaboutページではインスタンスの説明文を追加するだけではなく、なんとMastodon自体についての説明文を独自の解釈で改変しているのです。

pawoo.net

Mastodonは自由でオープンソースな分散型のSNSです。ユーザーは運営元やインスタンス(サーバー)を自由に選択して参加することができます。 同じインスタンス内での濃いコミュニケーションを楽しめたり、外部のインスタンスのユーザーをフォローできるなど、今までのSNSとは違う特色を持っています。 また、インスタンスは誰でも立ち上げることができるので、独自のMastodonを運用することも可能です。

最初のほうはいいのですが、だんだん雲行きが怪しくなってきます。元の説明文では信頼できるインスタンスでさえあればどのインスタンスを選ぶかは問題ではなかったはずなのに、インスタンス内の濃いコミュニケーションを楽しむためにどのインスタンスを選ぶかが重要、すなわちPawooを選んでねとでも言いたげなニュアンスに変わっています。インスタンス外とのコミュニケーションはオプションのような扱いにされてしまっています。インスタンスを誰でも立てられるというだけではなく、その独自性を強調しています。これを独自の解釈やPawooのカルチャーとして打ち出すのならまだしも、原文を改変してMastodon自体の説明として書いているのだから悪質です。 

私のMastodon像は本来の説明のほうと同じで、インスタンスはコンビニチェーンのフランチャイズやインターネットのプロバイダーのようなもので、どこを選ぼうがMastodonを使う上で大勢に影響しないものだと思っているのですが、Pawooにとってのインスタンスは学校や恋人を選ぶかのような、それ自体が目的となる選択であるようです。この説明は独自の解釈としか思えないのですが、しかし多くの日本人ユーザーの認識がこのようなものであるというのも事実です。Pawooやmstdn.jpといった一部のインスタンスにユーザーが集中しているのは、インスタンス内コミュニケーションのためにどのインスタンスを選ぶかを重要視しているのだと思われますし、複数インスタンスにアカウントを持っている人が多いのも、インスタンス内コミュニケーションを重視しているためだと思われます。

こういったユーザーの態度にも一理あって、インスタンス内コミュニケーションはローカルタイムラインという機能で実現されているのですが、これは確かに各インスタンス固有のものなのです*2。しかし、先のMastodonオリジナル説明を鑑みればこれは趣旨ではなく、リモートフォローや連合タイムラインといった機能によってインスタンス間の壁を意識せずシームレスにやりとりできること、むしろこちらのほうこそが本来の趣旨だということが分かるのではないでしょうか。分散型ときいて、インスタンスが個別に独立しているという点だけに着目する人が多いですがそうではなく、逆に個別でありながらそれでいてそのことを意識させずあたかもひとつのSNSのようにも振る舞うという点こそが分散型の肝要です。

実際、ある程度使ってみればどのインスタンスを使うかは大きな問題ではないことが分かってくるはずです。今はインスタンス内コミュニケーションの割合が多いかもしれませんが、もしこの先Mastodonが普及し多くのインスタンスにユーザーが分散していけばインスタンス間のやりとりの割合のほうが大きくなり、ローカルタイムラインの存在感は薄れていくのではないでしょうか。だいたい、ローカルタイムラインがそんなに重要なのだとしたらチャットや掲示板で済む話ではないでしょうか。そのような観点からみれば、個々のインスタンスは脳細胞のひとつひとつのようなものでそのユーザー数は問題ではなく、今のPawooがユーザー数を増やすことに躍起になっているのは何の意味があるのかよく分かりません。

また、現在Pawooはいくつかのインスタンスから「国交断絶」されている状態にあります。

togetter.com

これはpixivが意図したことではないのかもしれませんが、良かれ悪しかれ「どのインスタンスを選んでも、誰とでもやりとりすることができ」るというMastodonが本来意図したあり方とはかけ離れてしまっており、この点においてもbuzzfeedの記事にあるような「このサービスの可能性や魅力」を「正しく伝」えるという目的からはかけ離れてしまっているといえましょう。

もちろんオープンソースなんだし独自の解釈で好きなように使っていけばいいじゃんと言われればそれはもっともなのですが、そのせいでそれこそサービスの可能性や魅力が正しく伝わらないまま終わってしまうのではという思いからこのエントリを書きました。

pixivの意図に話を戻すと、あまり深く考えず勢いで始めたけど慈善事業というわけではなくとにかく人を集めて場やムーブメントをつくってマネタイズとかはそれから考えればいいや、ぐらいの思惑かなと想像しますが、先に述べたようにローカルタイムラインはMastodonの趣旨ではなく次第に存在感を失っていくのでインスタンスは場にはならないこと、また国交断絶の状態が続くことで囲い込みが実現できたとしてもそれならpixivが自分でtwitterクローン*3を作っていれば良かっただけの話になりそんなわけはなくその場合ユーザーは離れていくであろうこと、そもそもMastodon自体がすぐ廃れるかもしれないこと、そんなことをしてる内にどんどんコストは膨らんでいくこと、以上のように考えていくと、何かしらのリターンを求めてやっているのだとしたら残念な結果に終わるのではないかと思います。

*1:象とかけているわけではありません

*2:連合タイムラインの一部として他のインスタンスから見ることはできます

*3:pixiv内にひとこと投稿というtwitterライクな機能はありますが、あまり使われていない気がします